ISSN 0913-9931

No.44 1995.11


主 な 記 事

表    紙    切断によるスイカの耐裂果性の評価 視    点    支場の問題点雑感 研 究 情 報   チャのカルコンシンターゼ遺伝子の発現     暗黒低温処理イチゴ苗の赤色光照射による新葉の徒長防止効果        スイカの耐裂果性検定法と果皮組織 記    録  ◇現地技術会議が開かれる ◇一般公開

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視    点

支場の問題点雑感

研究をいかに最小限の要員・予算で効率的に推進するかについては多くの考えが提案され, 試行錯誤がなされている。しかしながら,その多くは精神・形式論に類するものが多いように 思う。今,農業や研究の将来を考える時,これに偏って,過去の二の舞を繰り返さないように 留意するのが肝要と思われる。現実を見据え問題点を解消する対策をとることが先ず必要と考 える。ここでは,触れられる機会の少ない支場の抱える問題点の一部について述べてみたい。
久留米支場は戦後間もなくこの地に開設されて以来近々50年を経ようとしている。この間, 特にキュウリ・イチゴの生態育種,メロンの複合病害抵抗性育種等々,我国の野菜生産におい て有用な幾多の輝かしい業績を上げて,数多くの研究機関の中でも絶大な評価を受ける存在と なってきた。外部の方々と挨拶を交わす時に,しばしば,「ああ,久留米支場ですか!名門で すね」とか,「伝統のある立派な試験場ですね」とかのお言葉を頂戴することが多く,現在で も食味と香気に優れた促成栽培用イチゴ品種「とよのか」の育成場所として広く知られている。 職員一同引き続きこれらの伝統と実績を背景に誇りを持って日々の職務に専念している状況で ある。
しかしながら,最近の諸般の情勢は,「農業の基盤は地域にあり,それを支える農業技術の 研究開発は生産現場周辺から生じた問題点よりテーマを得て重点的に推進する。」とする久留 米支場における従来からの主たる研究スタンスを今後も取り続けるのが容易でない状況となっ て来ているように思われる。それは例えば育種については実用品種の育成までは行わず中間母 本までとする,国研,特に専門場所は基礎的・基盤的研究に重点化する,等々の研究の推進方 向の変更によって発生していることもあれば,自由化や国際化等による厳しい農業情勢,ある いは公務,特に農業関係諸機関,その中でも末端の国研機関に対する行革の影響等の情勢の変 化に起因するもの,更には急成長した公立・民間研究機関等との競合によって生じているもの, 等のように種々の要因によっている。
支場は専門場所の一部として位置付けられており,所在地において実施するのが研究効率上 必要な研究あるいは所在地においてしか実施できない研究,について分担することになってい る。ただ,現実には所在する地域における独自の研究問題,特に生産現場に近い課題について も対応しているし,推進会議等の地域対応も行なっている。このように支場は専門場所と地域 場所との両面の役割を弱小ながらも実態として果たしている極めて効率的な組織であると確信 される。しかしながら,支場は時により専門場所でもなく地域場所でもないと見做され勝ちで, 地域総合等のプロ研予算も流れ難いし,非効率的な組織とされ縮小・廃止が検討されるのは勿 体ない話である。隔地部・支場は所在地に最も相応しい研究需要が存在するために設置された ものであり,その地での研究需要が状況の変化によって減少・消滅しない限り今後とも必要な ものである。農業とその研究は適地適作に従うのが最も効率的であるのは自明の理である。今 一度根本的に支場・隔地部の必要性について論議する必要があると考える。
余談ながら研究機関と中央との間には職種・担当ごとに○○科長会議,△△係長会議等の全 国会議があるが,隔地部長・支場長会議だけは存在しない。隔地部・支場の抱える問題点や諸 情勢について直接中央と意見交換する機会が皆無なのは隔地部・支場にとって極めて不幸であ る。隔地部・支場は小なりといえども所在地域においては重要な国家機関として期待も大きく, 常々動向を注目されていて,対外的な対面を保つ必要もある。この50年の間に周囲の状況は大 きな変化を遂げ建造物や道路も立派になったが試験場の諸施設はスクラップ化が深刻である。 年約1500人の見学者に対して未舗装の泥道を歩かせ旧式の老朽施設を案内するのは外来者に対 して申訳ないし国研としても辛い。新規課題関連だけでなく,古い基盤施設等の維持・更新を どうするのか真剣に考える必要がある。
     (久留米支場長・岩永喜裕)
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研 究 情 報

チャのカルコンシンターゼ遺伝子の発現

 カルコンシンターゼ (CHS)は,植物の二次代謝系におけるキーポイントの酵素であり,フェ ニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)と共に,分子生物学的な解析が進んでいる.花の色素で あるアントシアニンの合成に関与するため,ペチュニアなどのCHSは,植物の遺伝子発現機構の モデル系として研究されるほどである.しかし,木本性植物については,草本性植物と同レベル の研究は進まなかった.二次代謝産物が未同定のものが多く,また,新たな核酸単離法の開発 が必要だったからである.
 緑茶,紅茶の渋味は,食後をさっぱりとさせ,菓子の甘さを引き立てる.この渋味を感じさせ る物質が,チャの主要な二次代謝産物,カテキンである.カテキン含有量が,二次代謝産物と しては例外的に多いため,チャは,二次代謝研究の興味ある研究材料である。このカテキンの 研究に目を向けると,産物自体は非常によく研究されていたが,その生合成の研究は困難な点 が多く,ほとんど進んでいなかった.そこで,実験材料にあまり左右されない分子生物学的な 手法を用いて,チャのカテキン合成系の研究を開始し,特にCHSを解析することにした.
 遺伝子発現解析に必要な CHS特異的プローブは,手元になかったので,チャの CHScDNAをク ローニングすることにした.作成したチャ葉由来cDNAライブラリーから,既知のパセリCHScDNA をプローブとしてスクリーニングし,3種類のクローンを得た.これらの塩基配列のうち,翻 訳領域の配列は CHSとよく似ていた.そこで,得られた 3クローンは CHScDNAクローンと同定 された.
 カテキンは,茎や葉に含まれるが,その発達段階によっても,光の強さなどの環境条件によ っても変動する.まず,これらのカテキン含有量の変化する場合について, CHS遺伝子発現を 解析した.得られた3クローンに共通した塩基配列を含むDNA断片を,CHS特異的プローブとし て用い,CHSmRNA 量を調べた.葉の発達段階ごとに調べると,発達後期に最大となり,その後 減少することが示された.茎においても同様に,発達前期の方が多かった.また,茶樹に遮光処 理を施した時,葉の CHSとPALのmRNA量は減少した.これらの結果から,カテキン含有量は, カテキン合成酵素の遺伝子発現のレベルで制御されることが示唆された.
 これまでに,CHS 遺伝子発現によるカテキン含有量の制御が示唆されたので,CHS 遺伝子発 現の人工的な制御によって,カテキン含有量が変わることを期待している.常法としては, CHSのアンチセンスDNAをチャに導入して確めるところであるが,遺伝子導入したチャは今のと ころできないので,CHS 遺伝子発現を誘導あるいは阻害する因子を探している.また,CHS 遺 伝子を導入したチャの作出に向けて,CHS のゲノミック DNAのクローニングを手がけている. これらの基盤的研究を続けて,遺伝子発現解析によってカテキン合成系の制御機構を解明し, チャのカテキン研究が花開く時期に備えたい。
      (茶利用加工部・竹内敦子)

(図)チャの器官および茎と葉の発達段階でのCHSmRNA量の違い

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研 究 情 報

暗黒低温処理イチゴ苗の赤色光照射による新葉の徒長防止効果

 イチゴの促成栽培において,花芽分化を促進 するため暗黒低温処理をすると,新葉は著しく 黄化するとともに徒長する。このため,葉は軟 弱で折れやすく,苗の運搬及び定植等の作業を 困難にしているだけでなく,定植後の生育遅延 などの影響を及ぼすものと考えられる。そのた め,暗黒低温処理は比較的廉価で省力的な方法 であるにもかかわらず,普及が遅れている。こ のため,新葉の徒長防止技術の確立が急務とな っている。
 そこで,促成用品種の‘女峰’を用いて, 5 月下旬に鉢上げしたイチゴ苗をポット育苗し, 7月 13日に葉数約 6枚の苗を15℃15日間連続暗黒低 温処理区と同一温度及び期間でナショナル・カラード蛍 光灯純赤色(FL20S・R-F)20Wを 9:00-17:00照射 する区及び白色蛍光灯20Wを 9:00,13:00,17: 00にそれぞれ30分間間欠補光する区の3区を設 け1区24個体とした。低温処理は1x1.2mの人工 気象室で行い,蛍光灯は壁の1m側に約90cmの高 さに1本だけ設置した。各処理後は,ただちに 圃場に定植し,寒冷紗 (50%)で1週間遮光した。 その後,花芽分化有効株率・出蕾日・開花日等 の調査も合わせて行った。その結果,15日間の 暗黒低温処理中に出葉した新葉の葉柄長は,暗 黒下では著しく徒長するが,赤色光及び白色光 照射では自然光(85% 遮光)下と変わらず,新 葉の黄化も減少した(図1)。また,暗黒低温 処理を継続すれば,その後に出た新葉の葉柄長 の差が拡大した。
 赤色光以外の白色光に含まれる青色光(400- 500nm) 及び緑色光(500-600nm)の単色光を照射 した場合には徒長・黄化防止効果が認められず, 白色光の徒長防止効果は白色光に含まれる赤色 光によるものと判断される(図2)。頂花房 の花芽分化株率には差はなかったが,出蕾・開 花日は赤色光照射により暗黒区と比べそれぞれ 2.5日及び3.5日早い。開花数・花数及び果重を 見ると赤色光で最も多く,腋花房の出現株率は 赤色光で明らかに高いことが認められた。新し く出葉した葉の表皮細胞長を見ると新葉の連続 暗黒区では180μmで,赤色光照射区ではその約 2 分の 1の 74μmであった。さらに,その外葉 でも同様に赤色光照射区で細胞長の著しく小さ いことが認められた。表皮細胞数について見る と,新葉では赤色光照射区で若干多かったが, 有為な差ではなかった。また,外葉では両区に 全く差は認められなかったことから赤色光照射 による葉柄の徒長抑制効果は細胞の伸長抑制に よるものと考えられた。
 赤色光下では,葉柄は屈光性を示さないので, 真上からだけでなく,積み上げたコンテナの横 方向からの照射によっても同様の効果が期待で きる。また,ナバナ等の種子の低温処理中にお ける徒長防止にも有効であることを確認したの で(図3),他の作物にも応用できる可能性 がある。
(盛岡支場・宍戸良洋)
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研 究 情 報

スイカの耐裂果性検定法及び果皮組織

 スイカ栽培では,しばしば栽培期間中,収穫 中,輸送途中の裂果が問題となる。特に,小玉 スイカは物理的衝撃に弱く輸送性が低いため, 耐裂果性品種の育成が必要であるが,耐裂果性 の評価法が確立されていない。そこでスイカの 耐裂果性の検定法について検討するとともに, 耐裂果性に関わる果皮組織について調査した。
耐裂果性検定
 スイカ果実を一定の高さから落としたり,鉄 塊を果実に衝突させたところ,裂果程度に明ら かな品種間差異が認められ,耐裂果性の評価が 可能であった。しかし,これらの方法は客観的 な数値化が難しいため,オ−トグラフを用いた 客観的評価法について検討した。
 オ−トグラフに包丁を取り付け,果実を一定 の速度で切断したところ,耐裂果性の低い品種 ほど切断開始直後に裂果を生じ,切断抵抗値が 低かった。この方法による耐裂果性評価は容易 であるが,反復して検定できない欠点があった。
 オ−トグラフに円形あるいは刃形のプランジ ャ−を取り付け果皮切片を一定速度で折り曲げ た抵抗値は,耐裂果性の低い品種と高い品種間 で明瞭な差異が認められ,果実を落下させた場 合の耐裂果性評価との間に高い相関がみられた。 しかし,試料調整に時間がかかるため,多くの 果実を調査するには不適当であった。同様に果 皮切片を円形プランジャ−を用いて一定の速度 で果皮を貫入させた場合の抵抗値も,果実を落 下させたときの耐裂果性評価と相関が高く,明 瞭な品種間差異が認められた。この方法は折り 曲げに用いた試料よりも調整が容易で,多くの 果実を検定するのに適していた。
 以上の結果から,今回検討した検定法の中で は,果皮切片の貫入抵抗値の測定が簡易で正確 であり,反復可能なことから耐裂果性検定法と して優れていると考えられた。
果皮硬度と果皮組織
 耐裂果性の優れる品種は耐裂果性の劣る品種 に比べて表層部(写真)の細胞層数が多く,厚い 傾向にあったが,必ずしも果皮の硬さとは一致 していなかった。表層部の細胞は果皮の柔らか い品種ほど大きい傾向があり,特に横に長い特 徴が認められた。また表皮下約0.1mm〜0.2mmに 存在する厚膜細胞は果皮の硬い品種ほど層状に 厚くなって存在していた。表皮下約0.2mm〜2mm の細胞をみると果皮の柔らかい品種は果皮の硬 い品種よりも細胞が大きく,横に長い楕円をし, 細胞間の結合がゆるやかであった。一方,果皮 の硬い品種は細胞が丸くて小さく,それらが密 集した構造になっていた。表皮下2mm〜5mmには, 大小さまざまな細胞が存在し,果皮の硬さと細 胞の大きさとの間には一定の関係がみられなか った。細胞壁の厚さについては果皮の硬さと明 瞭な関係が認められた。
 これらの結果から,耐裂果性の優れる品種は 表皮下約2mmまでの細胞が小さくて丸く,細胞構 造が密であることが明らかとなった。また,厚 膜細胞との関係も示唆された。
       (久留米支場・杉山慶太)

(図)果皮貫入抵抗値の測定による耐裂果性検定

(写真)耐裂果性の優れた品種、劣る品種の果皮構造

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記   録

現地技術会議が開かれる

 去る10月5日〜6日に,第481回農林水産技術 会議(現地技術会議)が当場で開催された。松 本農林水産技術会議会長はじめ,委員,技術会 議事務局,農業研究センター,東海農政局,三 重県などから計48名が出席され,会議が行われ た。その後,農業研究センターと共同で推進し ている地域先導技術総合研究のキャベツ・ブロ ッコリーほ場の視察を行い,その場で生産者な どとの討論が行われた。さらに,米と野菜・花 などとの複合経営を展開している農事組合およ び三重県の南部にある養殖研究所の視察が行わ れた。

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一般公開[安濃・武豊・金谷・盛岡]

1.安濃−(生理生態部・環境部・野菜育種部・花き部)

 安濃の一般公開は11月 1日(水)に行われ, 早朝より多くの参観者があり,予定より30分繰 り上げ,午前 9時30分から午後 3時まで公開さ れた。快晴のもと約900人の参観者があった。 今年の公開は「花と野菜に親しもう」をテーマ に行われ,「セル成型苗の活着の仕組み」など 各種の実物・パネル展示や茶の試飲,ザワーク ラウトの試食,花の好み調査などに人気があり, 「野菜の鮮度を保つ」などの講演は準備した椅 子が足りず追加した。また,例年配布している スプレー菊は大変好評であった。

2.武豊−(施設生産部)

 武豊の一般公開は,「21世紀の野菜・花き・ 茶の生産をリードする施設園芸」をテーマに10 月28日(木)に行われ,晴天にも恵まれ昨年を 上回る1462人の参観者で溢れた。ワイヤサスペ ンション構造空気膜ハウス,ゴボウの水耕栽培 装置,果実収穫ロボット,根粒菌の効果などの 研究成果の紹介の他,ペットボトル利用の簡易 水耕栽培法,園芸相談コーナー,芋堀りコーナ ーは人気を集めた。新企画のフラワーアレン ジメントを始め,メロンの試食,キク苗のプレ ゼントは大好評であった。

3.金谷−(茶栽培部・茶利用加工部)

種苗管理センター金谷農場と共催で開催した 一般公開は,天候に恵まれ,県内外から 648名 の入場者があった。展示では,昨年の干ばつの 状況を紹介したコーナーに農家の関心が集まっ た。今回参加の武豊の施設生産部コーナーは, 多くの見学者の人気を集めていた。実演では, レール式摘採機に農家の興味が集まり,インタ ーネットで試験場や育種品種を紹介するコーナ ーにも見学者の興味が集まっていた。また,相 談コーナーや土壌診断,茶葉の栄養診断にも, 多くの希望者が詰めかけていた。

4.盛岡支場

盛岡支場の一般公開は 9月22日(金),近隣 の農水省試験研究機関3場所と合同で行われ, 晴天にも恵まれ,約 830名の参観者があった。 入口の玄関には飼料用お化けカボチャが飾られ 参観者の目を引いた。研究成果のパネルやトマ トの品種・遺伝資源,イチゴの育成品種の展示 には多くの関心を集め,親切な説明が喜ばれた。 トマトを使ったピザ,イチゴやカボチャの試食 コーナーは人気を集めた。イチゴの苗や各種カ ボチャの配布も大好評であった。

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     野菜・茶業試験場ニュース No.44 1995年11月      三重県安芸郡安濃町大字草生360番地      編集・発行  農林水産省野菜・茶業試験場      〒514-2392 TEL (059)268-1331


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